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「藤井聡太さんに抜かれるのなら光栄です」最年少名人・谷川浩司が語る“藤井将棋”の完璧さ「気配りができるところも含めて…」 

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片山良三

片山良三Ryozo Katayama

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photograph byNanae Suzuki/Yuki Suenaga

posted2023/02/26 06:01

「藤井聡太さんに抜かれるのなら光栄です」最年少名人・谷川浩司が語る“藤井将棋”の完璧さ「気配りができるところも含めて…」<Number Web> photograph by Nanae Suzuki/Yuki Suenaga

インタビューに応じてくれた谷川浩司十七世名人。藤井聡太竜王の将棋について、どのように見ているのか

 先手番の谷川の注文を藤井が受けて立って、戦型は角換わり腰掛け銀の最新形の戦い。藤井が50手目△6二金と待機する手を指すのに1時間44分も考え込んだところがひとつのハイライトとなった。それ以前の対局で1時間36分の長考を2回記録していた藤井だが、それを上回る当時の最大熟慮。いわゆる、どう指しても一局と思える局面で固まってしまう藤井流を予期できていたはずの谷川だが、直後の51手目▲5五銀左に1時間26分の考慮で対抗。藤井は52手目の△6五桂にさらに1時間32分を注ぎ込んだ。水面下に天才同士の濃密な読みのぶつかり合いだったのは容易に想像できる場面だ。勝敗の帰趨は76手という短手数で藤井の勝利となったが、両者の大刀の切っ先が触れ合う瞬間の迫力は見る者を圧倒せずにおかなかった。

 この将棋の細かい内容については「藤井さんの将棋を語るには、2年以上前の対局では情報が古過ぎますから」と、やんわり拒否されてしまったが、長考合戦の機微を探ると、「藤井さんの集中力の強さに引き込まれて行く感覚はありましたね」と認めた。「恐るべき吸収力」という論評は、藤井と真剣勝負を戦った谷川の洞察から語られた言葉だからこそ、怖いほど深い。

羽生善治さんもそうではあったんですが…

 谷川は「藤井さんに抜かれるのなら、むしろ光栄なこと」の言葉の補足として、「将棋の強さはもちろんですが、関係各所への気配りができるところも含めていまや完璧な存在。そして、まだまだ成長を続けているすごい人」と賛辞を惜しまない。

「この1月に出た新刊本を書き始めたのが昨年の春ぐらい。原稿を書き終えたのが11月頃で、そこから発刊にこぎつけるまでの2カ月の間にも、彼は目に見えて進化しているんですよ。本には名人戦の挑戦者になる確率は五割と書いたんですが、そこはリーグ戦が始まる前の時点での観測。3月の最終戦を前に藤井竜王と広瀬八段が6勝2敗で並びましたが、最終戦の先後の関係で、藤井竜王に少し分があるでしょうか。とにかく、2カ月であれほど変われる人ですから、半年、1年もあれば当然のようにすごいことになっている。

 四段に上がってからここまで、一度も渋滞することなく強くなり続けている人は歴史上初めてでしょう。羽生善治さんもそうではあったんですが、彼が20歳、21歳ぐらいのときは私が三冠、四冠を持っていた頃で、羽生さんはその1、2年で力を溜めて、22歳で一気に爆発させました。しかし、藤井さんにはそういう時期さえないんです。もちろん、力を溜めていた時期もあったでしょうし、現在もその進行形なのかもしれない。でも、その間もずっと結果を出し続けてきていますからね」

彼が考える「25歳」が一つの目安になるのかなと

――新刊の表題、「藤井聡太はどこまで強くなるのか」を、「藤井聡太はいつまで強くなるのか」に置き換えるとどうなりますか?

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